#62 ここにあるもの

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雨の日に風に運ばれてくる湿った、冷えた、重たい空気。

 

半分開けたベランダの窓から入ってくるそれは、空気というと重く、どちらかというと半分固体という感じで、スプレーから噴射される細かい粒子の集まりを彷彿とさせる。窓から入ってきたそれは少しずつ部屋の中で放射状に広がり、人の形になる。その粒子がそろりそろりと私に近づき、首に、耳に、顔に、ひやりとまとわりつく。

 

それは不快というのではなく、何か、懐かしいような泣きたいような、なんだかそわそわとさせられるような。

 

世界の他の場所にはなかった、ここにあるもの。

 

その重さは余計なものだと思っていたけど、なぜかひどく愛おしい今。

ときに息苦しさとなるそれは、物を早く朽ちさせるそれは、私にとって何の意味を持つのか。

 

まだ分からないけど。

 

けど。