#40 半透明な猫の話

f:id:tusensommar0408:20210214191657j:image

 

それは、確かに猫だった。
しかし、体が半透明で、しかも地面から10cmほど宙に浮いていた。

 

いつも通り早朝の散歩をしていると、100m先あたりからニッ、ニッと高い音が聴こえてきた。近づくにつれて、大きく、長くなり、猫の鳴き声だと分かったその時、黒猫が暗闇から姿を現した。

 

猫との距離が縮まる度に、鳴き声は大きくなる。しかし、周りの住民がまだ寝静まっていることを知っているのか、抑えたような鼻声を出している。

 

立ち止まると、猫は甘えたような声をだしながら、私の足元にすり寄って来た。触れることは出来るようだ。体が透けて、地面が見える。草や敷石。内臓とか、そういうものは見えない。あと、浮いている。ただ浮いているのではなく、空気の上を軽やかに、しかし確かな足取りで歩いている。

 

足元にいる猫を蹴ったり踏んだりしてしまわないように気をつかいながら、そろりと再び足を動かし始める。昔、全く同じこの道、この場所で、足に絡みついてくる野良猫の手を踏んでしまったことがあるのだ。本当に野良猫なのかと疑ってしまうほど、私の足に体にすり寄せてきた白と黒のハチワレ猫は、私があやまって手を踏んでしまったとき、ギャッという声を出して一目散に逃げていった。あの時は猫が手に怪我をさせてしまったのではないかと不安で、しばらくその猫を探したが、手を踏んだ相手の前に出てくるはずもない。怖くてしばらく同じ道を散歩することが出来なくなってしまった。

 

果たして、今私が間違えてこの猫の手を踏んでしまったとして、踏むことはできるのだろうか。

 

猫の背中から透けて見える舗装路の石が、小さな宇宙みたいだった。

 

#40
#毎日何かを書いてみる
#猫
#昨日の続き