#8 死
いつかのこと
ある砂漠の村に暮らす1人の老人は
自分の命の終わりを悟った
彼はこれまで皆がそうしてきたように
家族や村の人たちに挨拶をし、一人、夜の砂漠へと歩き出した
「さよなら」
「さよなら」
筋肉のほとんどない足を少しずつ動かし
村から離れた彼は
何もない砂漠の真ん中に立った
喉がかわいた
寒い
力が入らない
やがて老人は砂の上に身を横たえ
空を見上げた
雲間からいくらか星が見えた
そうか、私はこれから死ぬのか
死はこれまで経験したことがないから少し怖いが
いつまでも生き続ける訳にはいかない
死よ、あなたを迎えることにしよう
そのとき
突風が吹いて砂を巻き上げ
彼の姿は見えなくなった。