(本)お父やんとオジさん

「私には難しいことはわかりません。共産主義が人を幸せにするのか見当もつきません。しかし共産主義よりも民主主義よりも大切なのは家族じゃないんですかね。戦場で君が何を見たのか、私には想像もできません。しかし人は人を殺すために生まれてくるのでも人に殺されるために生きているのでもないはずです。生きるために生まれてきたのでしょう。それも家族のために懸命に生きるのが人としてやらなくてはいけないことではないでしょうか。」

 

この本では朝鮮戦争下の民主主義、共産主義イデオロギーやそこから生ずる同国民間での争いと対比されて、日本に帰化した朝鮮人の「お父やん」が戦時下の朝鮮に渡り、ただ自分の家族を守ろうとする、目の前の人にただ正直であろうとする姿が描かれている。それは、ただのきれいごとではなく、必要があれば最後の手段に人を殺める覚悟も含んでいる。そして、民主主義、共産主義、日本嫌い、裏世界、将軍など信条・立場に関わらず、その「お父やん」に本能的に惹かれ、手を差し伸べる人々が描かれる。

 

太平洋戦争中・後の日本で、日本に連行され/自ら渡航し働いていた朝鮮人を搾取・差別したり、下等な人間としていつでも殺していいという許可がでていたり、逆に韓国で日本にいた朝鮮人たちにたいして偏見があったり、信条の違いで殺し合う、というそのような背景のなか、そのようなもので人を判断せず、淡々と「生きる」お父やんの生き方は、現代の社会に対しても一つの可能性を提示しているような気がした。

 

「吾郎君、別に余所者でなくても人間は弱い者を虐げるものですよ」

1人1人が自分の弱さに向き合う世の中を作っていければいいと思う。